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タイトル・マッチ

  • ゲストムッシュ徳岡
  • 聞き手加藤 豊
【ゲストプロフィール】
パリと東京を拠点に骨董商も兼ね、骨董市や蚤の市の写真を撮り続ける写真家であり、世界各国のタバコグッズのコレクターでもある。雑誌『HUgE』2010年2月号(講談社)にも収集品が取り上げられている。





加藤
1970年代、僕の大学が中央線沿線上だったので、国分寺で徳岡さんがやっていた喫茶店「寺珈屋」(てらこや)の噂は友人から聞いていて、さらに、徳岡さんがマッチコレクターでマッチを非常に愛するお店だっていうことも当時から知っていたんですよ。 それが、何十年もたってから、徳岡さんがフォトグラファーとしてフランスと日本を行ったり来たりしている中で、フランスのタバコや、マッチ、灰皿、シガレットケースなど、グラフィックデザインにこだわるアイテムを集めていて、日本の骨董市にも出店されていると知って、懐かしくもあり驚きもあったりで、今回、対談のゲストにお招きさせてもらいました。 1977年に徳岡さんが渋谷のPARCOで「マッチ・燐寸博覧会」を開催されたいきさつを伺おうと思うのですが・・・。そもそも、マッチを集めることになったきっかけは? (※「マッチ・燐寸博覧会」は渋谷のPARCOの他に、千葉、岐阜、大分のPARCOでも巡回展を開催。)
すべての始まりはこれ(白鳥印のスウェーデンのマッチ)。 当時、『ビックコミック』誌にたまたま載っていたこのマッチラベルのデザインに一瞬で魅せられてしまったんですよ。シンメトリー風なとてもバランスのとれた「洋のセンス」。明治時代にこんなものがあったのか?!という驚きとともに、言葉では表現しきれない興奮があった。それがきっかけで古いマッチラベルを集めるようになって、気がつけば、当時経営していた喫茶店「寺珈屋」の店内は古いマッチでいっぱいになってた(笑)。
徳岡
そして、次には集めるだけでなくて、「昔の形に戻したい」って思うようになったんです。古くてもこんなステキなものを埋もれさせておくのはもったいない!埋もれてしまったものをもう一度蘇らせたい!復刻したい!ってね。 それが自分の役割だと当時思ったんだよね。それで、まずは、 SWANマッチをまねて自分のお店のマッチを作ったんです。 それから、明治時代のマッチラベルの刷り物から新たに版を起こしてオフセット印刷し、経木の箱まで調達して、何十種類ものマッチを復刻させた。さらにマッチラベルをデザインにしたTシャツや、それを入れる大箱マッチケース、ポストカードなども作って売るようになった。 若い人達からの反応も良かったので、軽井沢に持ち込んでみたら、大反響であっという間に在庫切れ! その軽井沢では、お忍びで旅行中のジョン・レノン&小野洋子夫妻も現れ、二人ともTシャツを買ってくれたりね。 そんなこんなで、渋谷のPARCOからお声がかかって、「マッチ・燐寸博覧会」を全国4カ所で開くことになったんですよ。
徳岡
加藤
当時、“マッチ売りの少年”と大きく新聞でも扱われましたよね。
加藤
その後、徳岡さんはマッチだけじゃなく、タバコ周辺グッズへとコレクションの幅を広げていったんですよね。
うん。始めはマッチを主に集めていたんだけど、ある時、戦前の外国タバコのパッケージのコレクションを一度にたくさん手に入れる機会があって、一気にタバコのパッケージコレクションにも突き進むことになったんだよ(笑)。 そのパッケージコレクションとは、これ。 これは千葉県の法華経寺で開かれた骨董市で偶然に見つけたんだよね。 もうお宝発見!って感じ。戦前に海外から輸入されていた洋モクのパッケージの数々。エジプト、フランス、ロシア、アメリカなどなど、昭和13年までのもの。その後は戦争が始まっているから、海外のものは入ってこなくなったんだな。
徳岡
加藤
これだけきちんと残っていると貴重なものだし、美術的価値も高いよね。
加藤
ところで、徳岡さんが特にフランスのグラフィックやノベルティにこだわっているのはなぜ?
それはね、昔フランス好きな友人と一緒にフランスに行って、骨董市や蚤の市を回ったら、そこでまた「見てはいけないものを見てしまった」から(笑)日本がいくら洋風化しようが、かなわないデザインセンスを感じてしまってね。 以来、フランスの骨董市・蚤の市には1992年からずっと年2回くらいのペースでコンスタントに行ってましたよ。 僕が一貫して集めているのは、1950~60年代のフランスの広告やノベルティ。その中でもマッチ・タバコ・灰皿、この3つは不可欠な3要素だね(笑)。
徳岡
加藤
こういうものは100%商標美術、もしくは商業デザインでしょ?つまり純粋芸術じゃなくて広告美術の世界。
うん。つまり、“グラフィック”なんだよね。 グラフィックってタバコとかマッチがなかったら、大げさだけどこんなに発展していなかったとも思う。
徳岡
加藤
自分の国のことを悪く言いたくはないんだけど、グラフィックデザインが元々海外からやってきたものだっていう事情もあるけれど、欧米では、商品の認知を得るための販促用ノベルティグッズがすごく発達しているよね。 商品そのものの品質だけじゃなく、商品を売るためにどれだけ力を込めていたか。ノベルティにも知恵とお金をかけていいものを作っていた。 そういう感覚が日本は遅れていたんだと思うんですよ。ノベルティを作る時のデザイナーの発想とかアイテムを考え出す知恵とかに、お金をかけるという部分が日本の場合は足りないんだよね。
そもそも欧米では「嗜好品」は富裕層のものだからね。タバコも完全に下々の物じゃなかった。お金持ちの物なんだよ。 だから金持ち文化の中では、いいかげんな物も作れないし、お金もかけたんじゃないかな?
徳岡
加藤
そうか、そうか!なるほどね。 でも、一人のデザイナーとして見たときに、ある種の悔しさを覚えますね。 外国ではこんなに素晴らしい魅力的なものを作っているのに、日本ではノベルティは「おまけ」みたいな扱いじゃない?(笑)。一生大事に残しておきたくなるような価値を見出せる物はなかなかないよね。
でも、日本にも全くなかったってわけではなくて・・。 例えばセブンスターの灰皿はノリタケが作っていて、メラミン樹脂製なんだよね。当時としては最先端の材質。だから専売公社もお金をかけてたんだよ。 最近、僕がこだわってい固執してるのは葉巻の化粧箱。 箱だけでも市場で何千円もの値段で売ってるんだよ。中身がないのに(笑)。 そう、葉巻に関しては、まさに印刷の粋(すい)だよね。
徳岡
加藤
うん。あらゆる特殊印刷のテクニックを駆使しているじゃない。箔押しやエンボスなんかの加工も。まるでクリスマスプレゼントでも入っているかのような贅沢で華やかな箱ばかりだよね。 徳岡さんは写真家として国内外の骨董市や蚤の市を撮っているわけだけど、それはなぜ?
蚤の市の写真を撮っている写真家っていなかったんだよね。 あの世界は、業界の外の人間にはなかなか撮りきれない。撮るにはその中に入らないと・・、というのが高じて、写真を撮りながら自分も蚤の市の世界に入っていった感じかな?
徳岡
加藤
フランスの蚤の市はいい雰囲気が出ていますね・・。人々の顔もすごくいいし、フランス映画のワンシーンにも似た人生の重みのようなものも感じとれて。
悔しいんだけれど、向こうの人は普通の人でもこうして骨董品を見ている顔や姿がとても知的に見えるんだよね(笑)。
徳岡
加藤
これも大切な歴史の遺産ですよね。日本で徳岡さんご自身が出店している骨董市や写真展にもまたお邪魔しますよ!